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【一時閉館】みなみ会館の思い出は語り尽くせないほどあるが語らずにはいられない 第1回(全4回)

kamito努

「京都みなみ会館」(以下:みなみ会館)が3月31日をもって一時閉館することが決定しています。1963年からつづいた歴史に、一度、区切りをつけることになります。

mydでは、みなみ会館を支えた人や、閉館の様子を取材することが決定しました。

企画の第1弾は、担当である筆者自身のお話です。

わたしは、京都でライターをしています。みなみ会館へも頻繁に足を運んでいることから、今回、担当することになりました。

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京都駅から歩いて15分ほどのみなみ会館は、1スクリーンのみのミニシアターです。

シネマコンプレックスのように、同じ作品を1日になんども上映することはなく、朝10時から夜まで5本ほどを上映しています。

期間中は毎日上映される作品もあれば、数日に1回の上映もあります。

映画や映画館との関わり方は人それぞれですが、みなみ会館の場合、偶然時間が空いたとか、行った時間に上映している作品から鑑賞を決めよう、と劇場に訪れる人は少ないのではないでしょうか。

「この作品が見たいから、この時間に行こう」と足を運ぶ人が多いはずです。

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わたしが初めてみなみ会館に訪れたのも同じ理由でした。

斎藤工さんが出演する映画『欲動』(2014)が観たかったからです。
鑑賞は2015年で、当時19歳だったと記憶しています。

上戸彩さん主演のドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ)が放送されていたのが2014年だったので、斎藤さんの”色気” に注目が集まり、人気に火がついた頃でした。

わたしは携帯小説を原作にした映画『クリアネス』(2008)で斎藤さんを知り、以来、出演映画やドラマを鑑賞していましたが、『欲動』はR-18+指定作品で恋愛描写があると予想できましたし、”色気” が代名詞になりつつあったタイミングで観たかったのでした。

それに加え『欲動』は、『クリアネス』の主演女優が監督した作品とあって、どこかご縁も感じていました。

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映画に限らずエンターテインメントは、賞賛するのも批判するのも、作品をどんな風に受け取るのも、配慮を忘れなければ、ルールや規則のない自由なものです。

わたしはそこに惹かれて映画や小説、ドラマ、アニメ、舞台などあらゆるエンタメが好きですが、ときどき、息が詰まりそうになることがあります。

それは、あまりに増えすぎる批判とそれに対抗する意見を目にしたときや、賞賛や批判それ自体がムーブメントになっているとき、タイミングを見計らった製作陣のプライベート流出、制約がないはずの描写に対する不毛に思える議論、名だたる映画識者の評論に圧倒されたときなど、さまざまです。

すると、自分はどれを信じれば良いのか、作品に対してどんな立場を取るのが安全なのか、あるいは貫くべきは何か、わからなくなります。

もちろんそれらが、自分にとって都合が良く、便乗したいときだってあります。でも、それって必要なのだろうかと感じることも多いです。楽しかった、面白かったの気持ちだけで、好きや嫌いを言ってはいけないのでしょうか。

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けれども、息苦しさから解放してくれるのもまた、映画なんだと思わせてくれたのが、みなみ会館での『欲動』でした。

「俳優・斎藤工」が固定されつつあるなか、作品を堪能できるか気がかりでしたが、映画の世界に浸ることができ、雑念は元からなかったかのように忘れさせてくれました。

『欲動』は、心臓病を抱える夫とその妻が、夫の妹の出産に立ち会うためにバリ島を訪れ、生死や愛のはざまで揺れ動く様子を描いた作品です。繊細な描写もありましたが、バリ島でのオールロケが活かされた情景の映像美、異国の人や音楽とのふれあいが、余計に開放的な気持ちにさせてくれたのかもしれません。

ただただ、良いと思える映画でした。

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映画やエンターテインメントに潜む自由というのは、本来こういうものか、と気づくきっかけになったと思っています。

賞賛や批判をする自由ももちろんあるけれど、言葉を尽くさない自由もあります。
誰かの評価にたよらないで、自分だけの気持ちや感動を手に入れることができます。

それは映画の力でありながら、映画館の力であると思うのです。

ドラマやアニメのように毎週決まった時間の放送ではなく、小説のように好きなタイミングで読み進められるのでもなく、舞台ほど鑑賞料金がかさむこともありません。

作品1本分、わずか2時間ほどかもしれませんが、携帯のニュースやタイムラインから逃れ、誰かと一緒でも、上映中はひとりで、好きなように作品に接することができます。

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そのうえみなみ会館では、1日1回の上映という巡り合わせも素敵です。

他人であっても、同じ空間で作品を観ている以上、同じところで笑い、涙しているであろう誰かに親近感がわくものです。

愛着を持って通い続けた、観たい作品の上映が偶然みなみ会館だった、とりあえず行ってみようと足を運んだ、など、いろんな人のいろんな偶然が重なって、あの1スクリーンに集うのも、3月末まで。

きっとまた新たな場所で再開できるだろうと思っていますが、寂しいです。

わたしにとって自由な映画の楽しみ方に気づいた場所であり、『欲動』をはじめ、みなみ会館で観た数々の作品とともに、折に触れて思い出す映画館になりました。

でもその前に、閉館まで、名残惜しく毎日のように通いたい気持ちです。

 

京都みなみ会館

【住所】〒601-8438 京都市南区西九条東比永城町78
【アクセス】京都市バス「九条大宮」降りてすぐ
近鉄「東寺駅」から徒歩2分
【公式サイト】http://kyoto-minamikaikan.jp/

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