今月31日に一時閉館する、京都のミニシアター・京都みなみ会館。
最終週の上映作品も決定し、いよいよ閉館までの時間が短くなってきました。
一時閉館までを追う「みなみ会館の思い出は語り尽くせないほどあるが語らずにはいられない」第2回は、吉田由利香館長のインタビューをお届けします。

閉館への想いや、みなみ会館での思い出について、お話を伺いました。
―3月31日の一時閉館まであとわずかとなりました。今のお気持ちをお聞かせください。
やっぱり悲しいし、寂しいです。
わたしが生まれる前からある映画館を、自分の代で閉めなければならないプレッシャーもあります。わたし自身、いつまでもあるものだと思っていたんですよね。でも、建物の老朽化には逆らえず、決めざるを得ませんでした。
―現在は館長としてお客様を迎える立場ですが、観客としての思い出もありますか。
わたしは生まれも育ちも京都ですが、みなみ会館は少し遠かったんです。でも、高校・大学時代にはどうしても観たい作品があると、自転車で来ていました。高校生のころ、オールナイト上映にも参加したこともあります。交通費を浮かせるため、自転車で40分の道のりが懐かしいです。
―高校時代にひとりで映画館に足を運ぶなんて、ほんとうに映画がお好きだったんですね。
小学生のころから、映画を観るのは好きでした。といっても、普通に好きだなあというくらいですよ。
高校時代は部活への参加が必須だったので、興味があった映画研究部に入りました。高校の近くに映画館があって、学校帰りにひとりで観に行くこともありましたね。
―小さいころから映画を観ていらっしゃったんですね。具体的に、映画との出会いはいつ頃ですか。
今振り返ってみると、映画を観るようになったきっかけは2回あるように思います。
1回目は、小学1年生のころに家の近くにできたビデオ屋さんに通うようになったときです。『アダムス・ファミリー』『キャスパー』『フック』などお気に入りの数本を、順番に借りては何度も繰り返し観ていました。
それから自然とジブリやディズニー作品も借りて観るようになりました。
そして2回目が、高校の映画研究部に入ってからですね。
―映画研究部で、とくに思い出に残ってることはありますか。
初めての部活動のときに、上級生のチョイスで鑑賞した映画に衝撃を受けました。
寺山修司監督の『田園に死す』という作品です。
アングラで、白塗りや銀塗りの人が登場したり、裸の女の人も出てきたりと、「こういうのも映画なんだ・・・!」と感じた記憶があります。
何より、わずか1、2歳上の先輩が新入生に見せようと選んだことが衝撃でした。それでまた、『田園に死す』をレンタルするようになったんです。
―やっぱり、繰り返し観るのがお好きなんですね。
今も、同じ作品を繰り返して観ますよ。
気持ちが凹んでいるから今日はこれにしようとか、気分で決めて観ることもありますね。
新しいことをどんどん知りたいというよりは、一つのものを延々と観るタイプです。繰り返し観ると、新しいことに気づかされたり、初めて観たときの気持ちに戻れるのが良いなと思っています。
―『田園に死す』も何度もご覧になりましたか。
エンドレスで借りていました。でもそのうち、周りに並んでいるDVDも手に取るようにななって、少しずつ範囲が広がりましたね。チェコ出身のアニメーター、ヤン・シュヴァンクマイエルの作品もこのころに出会い、今でも好きです。
―その後、大学でも映画の勉強をされたと伺っています。
おもに映画の作り方を学び、ゼミや卒業制作で実際に作品づくりも体験しました。
ただ、映画の世界はかなり体育会系で、集団での仕事が基本です。当時、やりたいことを口に出すのが苦手だったのもありますが、「しんどそうだな」と感じていました。
なので卒業後は、一人でできる手書きアニメーションを作ろうと思っていたんですよね。
―では、どのような経緯でみなみ会館の館長になられたのでしょうか。
もともと就職活動はしていなかったのですが、大学でみなみ会館の募集があることを教えてもらい、来てみたらその場で合格をいただいたんです。
―その場で合格ですか! 結果を受けて、すぐにやろうと決断できましたか。
受かってから初めて、やってみたいかなと思いました(笑)
映画ファンとして、以前からみなみ会館は好きでしたが、まさか働けるとは思っていなかったです。
映画の”出口”の部分にあたる映画館に関わることも、まったく予想していませんでした。
―晴れて、新卒で入社されたんですね。
決まったのが、卒業の1週間ほど前のことでした。流れに身を任せていたら、就職し、館長になりました!
とはいえ、はじめはわからないことばかりです。
助けてくださったのは、昔からの常連のお客さんでした。映画の情報はもちろん、過去にみなみ会館でやっていたイベントなどを教えてもらい、支えていただきました。
―吉田さんにとってみなみ会館は、観客としても、館長としても思い出深い映画館ですね。
本当にそうなんです。
すでに、一時閉館後の営業再開に向けて準備を進めていますが、建物や場所も変わり、同じものではないので、やっぱりものすごく寂しいです。
―ひとまず、みなみ会館の営業はあと少しになりましたが、吉田さんが考える「映画」と「映画館」の魅力、それぞれ教えてください。
「映画」の魅力・・・そうですね、まずひとつはダイナミックさだと思います。
最近は、Netflixやyoutubeなどネットで映画が配信されることで、スマートフォンやパソコンの小さい画面で観ることも増えましたね。でも今のところ、映画は大画面で観るものとして作られているので、家庭用テレビで観るドラマなどとはスケールが違います。
登場人物の表情や背景が隅々までわかる、大画面ならではの情報量の多さも、ダイナミックな部分ではないでしょうか。これは「映画館で観る映画の魅力」だと思っています。
―「映画館」の魅力についてはいかがでしょうか。
映画館に行くまで、そして帰るまでのいろんな記憶が付随していることですかね。
どこの映画館に行ったとか、誰かと待ち合わせをした、ランチをしたなど、映画以外にもいろんなことを覚えていませんか。
それに、豊かな休日が過ごせる気がしますよね。せかせかせず、ゆったりできるのも、今現代における「映画館」の魅力かもしれません。
―ありがとうございます! 最後に、3月31日までのみなみ会館のイベント情報を教えてください。
3月26日〜31日の最終6日間には、全部で38作品上映する「さよなら興行」を企画しています。スタッフがセレクトし、思いを込めました。ぜひご来場ください!
「みなみ会館の思い出は語り尽くせないほどあるが語らずにはいられない」、次回は番外編として「さよなら興行」の中からmydおすすめの作品をピックアップします。
ここでは語りきれなかった吉田館長の2017年ベスト作品や、オールタイムベスト、いま注目の監督についても次回ご紹介します。お楽しみに!
映画情報
『アダムス・ファミリー』(THE ADDAMS FAMILY / 1991)
100分、アメリカ、ホラー/コメディ
監督:バリー・ソネンフェルド
出演:ラウル・ジュリア、アンジェリカ・ヒューストンほか
『キャスパー』(CASPER / 1995)
100分、アメリカ、SF
監督:ブラッド・シルバーリング
出演:クリスティナ・リッチ、ビル・プルマンほか
『フック』(HOOK / 1991)
142分、アメリカ、ファンタジー/アクション
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ダスティン・ホフマン、ロビン・ウィリアムズほか
『田園に死す』(1974)
102分、日本、ドラマ
監督:寺山修司
出演:菅貫太郎、高野浩幸ほか
ヤン・シュヴァンクマイエル
チェコスロバキア・プラハ生まれ、アニメーション/映像作家
主な作品:『アリス』(1988)、『ファウスト』(1994)ほか
京都みなみ会館
【住所】〒601-8438 京都市南区西九条東比永城町78
【アクセス】京都市バス「九条大宮」降りてすぐ
近鉄「東寺駅」から徒歩2分
【公式サイト】http://kyoto-minamikaikan.jp/

