第二回「京都人の記憶力」
時々、他の地域の方から「京都人の気質は何ですか?」と尋ねられます。その時には、「記憶力がいいですね。」と言っています。「ホントかいな?」と言われそうですが、結構、京都人は記憶力がいいと思います。
明治時代になって明治天皇は京都から東京に移られました。明治天皇は「ちょっと、東京に行ってくる」と言われたとか。その時に明治天皇を追って、たくさんのお店、会社が東京に移って行きました。そのため、京都の人口は三分の二まで減ってしまいます。
その時、東京に行かずに京都に残ったお店に京都人は恩があるんですよね。別に親からそんなこと言われたことはないのですが、京都の街の持つ歴史の空気が自然と東京に行かなかったお店を応援したくさせるのです。こんなことは京都人にしか理解してもらえないでしょうけど……。
京都の商売では何より、信用というのを重視します。やはり、これは記憶力があるためだと考えます。京都では一旦、信用を落とすとなかなか復活することは難しいです。マーケットの小さい京都だと東京や大阪と違い、悪い噂はすぐ広まってしまいます。しかも、悪い噂は消えない。二年前の暮れに京都の食肉業者が注文を受けたランクの牛肉が欠品していたため、注文されたランクよりも上位の牛肉を納品していたことが話題になっていました。法律的には食品偽装なんでしょうけど、京都的な事件かなぁと思います。この業者は信用を落としたのでしょうか?
以前、上京区のご年配の方に(私は下京区の住人)「下京の人間は根性なしだ。」と言われました。「ちょっと、信長みたいな田舎サムライに脅されたくらいでホイホイとカネを出しよって。」と。
私はその時、何のことかすぐには理解できなくて。あとで調べると、1573年に織田信長は京の町衆に戦費の供出を迫ったようです。下京の町衆はすぐに銀800枚を出したのですが、上京の町衆は出し渋って6000~7000軒位焼き討ちされたとか(当時、京の町は上京と下京だけしかありませんでした)。
下京は焼き討ちされていないので親や周りの人からそういう話は聞かされたことはありませんでしたが、焼き討ちされた上京の人の中には、土地の記憶として受け継がれているのでしょうか。それにしても、「445年前のことを私に文句言われてもって・・・。」感じです。
「京都人が言うこの間の戦争は『応仁の乱』の事だ。」というのは都市伝説で、今では「この間の戦争は『応仁の乱』」という話は聞きませんね。でも、私が小学4~5年生の頃に近所のお年寄りが「この間の戦争」=「応仁の乱」で使っていたのを憶えています。あれはからかわれたのでしょうか?未だにわかりません。
実は私は子供の頃、亡くなった祖父から新選組の悪口を聞かされました。「新選組はひどい連中だった。」と・・・。新選組ファンの方、ゴメンナサイ(実家が屯所のあった西本願寺の近くだったせいでしょうけど)。でも、よく考えると明治生まれの祖父が知っている筈はないんですよね。京都の人間は同じ土地の上に代々、住んでいることが多いので昔の記憶が引き継がれていくのです。きっと、祖父も近所の当時のお年寄りから新選組の悪口を聞かされていたのでしょう。
そんな京都の歴史の雰囲気を知ると、私には何百年と続いた老舗のお店がいかに京都の人たちの信用を得てきたかを考えます。それで、多くの京都人は老舗の暖簾の重さに敬意を払うのです。
明治維新により人口を大きく減らした京都は当然、寂れていきます。そこであとに残った京都人は何とか京都を立て直そうと、いろいろなアイデアを考えます。
全国に先駆けた「小学校の創設」、前代未聞の大工事の「琵琶湖疏水の建設」、新たな繁華街の「新京極の創設」など次々と行動に移しました。相当な危機感だったと思います。
でも、危機感だけではなく、京都人はもともとチャレンジャーです。江戸時代に京都は江戸に比べて武士の数が圧倒的に少なかったようです(大坂も同じだったと思いますが)。それで、幕府は京の町衆にかなり、自治を認めていました。「自分たちで勝手に決めてね」ということで、思い切った新しいことができるのですね。もし、新しいことをして何か問題が起きても仲間内で事が収まります。これが江戸なら、武士の世界、「切腹・お家断絶」です。新しい物好きの京都人の気質はひょっとして、こんなところから生まれたのかもしれません。
新しい物好きで、しかも古いものを大切にする。この京都人の気質はそのまま、外国人が日本(人)に感じるユニークさ、そのものではないでしょうか。そんな事を少しでも書いていけたらいいかなと思っています。
辻井 輝幸
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