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「口噛み酒から連想する椿」詳しすぎる、辻井輝幸の京都随想記

辻井 輝幸

第三回「口噛み酒」と「椿」について

先日、テレビで「君の名は」という大ヒットアニメを見ました。その中で「口噛み酒(くちかみざけ」のシーンが出ており、私の頭の中で「口噛み酒」➔「酒造り」➔「椿」と連想してしまったので「椿」の事について書きます。

 

まず、「口噛み酒」とは、ご飯などを口に入れて噛んで、それを吐き出したものを放置して造るお酒です。ここから先は私の想像ですが、唾液の中のアミラーゼという酵素が米のデンプンを糖に変えて(ご飯を噛んでいるとだんだん、甘くなっていきますよね)、その後、自然界の酵母菌がその糖をアルコールに変えるんだろうと理解しています。そんな偶然性に頼って上手くできるのかなぁとも思っていました。

そこで思いついたのは唾液の中にあるリゾチームという殺菌作用のある酵素です。人や犬や猫などの動物はケガをした時に傷口をなめたりして唾液をつけますよね。

これによって、酵母菌以外は殺菌される?酵母菌は大丈夫なのか?私の頭の中のイメージでは酵母菌はタフな奴でかなり強いイメージを持っています。少なくても勢力争いの中で酵母菌に有利に働くような気がします。私の推測が外れていたらゴメンナサイ。専門家の方、間違っていたらご意見ください。

 

実は正確には酒造りに使われたのは「椿の灰」です。「椿の灰」は「酒造り」の時に使う「米麹菌」を自然界から、選り分ける時に使用されたんです。

昔、灰屋さんという商売がありました。以前は、台所で煮炊きをするのに槙・薪を使っていましたね。囲炉裏や竈(かまど:京都では「おくどさん」といいます)の灰を回収する業者がいたのです(古いお寺の墓地を歩くと古い墓石に「灰屋」という文字を見ることがあります)。
「灰なんかどうするの?」って思われるかもしれません。灰はアルカリ性で酸性の土地を中和させるための肥料としてや、藍染め、焼物の釉薬などいろいろな利用法がありました。しかも、灰のアルカリ性には殺菌作用があり、なんと驚くことに昔の人は洗剤としても利用していました。食器洗い・洗濯などです。こう考えると、現代人の目からはタダのゴミにしか見えない灰が宝の山に見えてきませんか。

そして、昔の米麹屋さんは自然界に浮遊する米麹菌の胞子を繁殖させるのに、特にアルカリ性が強い椿の灰を使ったというのです。米麹菌はアルカリ性に強く選り分けることができたのですね。以前見たNHKのテレビ番組で米麹屋さんは「先祖は椿の灰を使って(米麹菌を)手なずけた。」という表現をされていました。

昔、京都の大原地区が椿の産地で、地元の人は「今も藪椿が多いですよ。」と言われていました。

ワインは酵母菌を使って、糖をアルコールに変えます(原料のブドウには糖が含まれているので)。しかし、日本酒の原料の米には糖がほとんど含まれていないので、酵母菌が働かないんです。

そこで「米麹菌(こめこうじきん)」を使い、米のデンプンを糖に変えて、その後、酵母菌により、その糖をアルコールに変えるんだろうと考えています。
「米麹菌」は実は日本にしかいないカビです。最近、最新の遺伝子解析の研究でこの「米麹菌」は日本人が人工的に作り出したという説が出てきました。

「米麹菌」の学名を「アスペルギルス・オリゼ」をいいます。このカビは「アスペルギルス・フラブス」というカビから日本人が作り出したというのです。

「アスペルギルス・フラブス」は「米麹菌」と同じ様にデンプンを糖に変えることできますが、同時に「アフラトキシン」という強い毒も生成します。昔の人は、何とか誤魔化しながら使っていたと考えられます。そして、「アスペルギルス・フラブス」だけを室に入れて育てていくと、外敵の全くいない環境では毒を造る必要がなくなって、毒を造るのをサボる株が出てくる。そうです、それが「米麹菌」になっていきました。

 

はるか昔、「米麹菌」や「アスペルギルス・フラブス」の存在が知られていない頃、神に仕える巫女の唾液に含まれる「アミラーゼ」によって、米のデンプンを糖に変え、自然界の酵母菌によって、酒にしたんだろうと「君の名は」というアニメを見ながら思ってしまいました。

「米麹」屋さんは「もやしや」さんと呼ばれます。京都では六波羅蜜寺の近くに京都で唯一残った「もやしや」さんがあります(全国で現在10軒ほどとか)。その全国の10軒ほどの「もやしや」さんで全国4000軒ほどの酒蔵・醤油屋・味噌屋などに「米麹菌」を供給しています。伏見区の月桂冠大倉記念館で以前、伺うと「うちの様な大手メーカーは重要な部分を外部に頼るのはリスクがあるので、自社の研究所で米麹の株を管理しています。」と言われていました。

 

平安時代から使われていた「米麹菌」は、室町時代に大豆にも使われ、味噌と醤油を創りだしました。「米麹菌」を日本人が生み出さなければ、日本料理は今とは違ったものになっていたんでしょうね。

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辻井 輝幸

辻井 輝幸

【京都観光ガイド】1956年、京都市下京区の生まれ。京都産業大学経済学部卒。子供の頃の遊び場は東本願寺と西本願寺。京都の事なら、何でも興味あり。得意分野は「美術(絵画)・建築(昭和初期以前)・天文(歴史関連)」、趣味は「歩くこと(1日に4万歩以上歩くことも)」、資格は「京都観光文化検定1級・茶道文化検定2級を所持」
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