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「京都人は(関東の人が考える)関西人ではないのです」詳しすぎる、辻井輝幸の京都随想記

辻井 輝幸

第十回  京都人は関西人じゃない?

関東の方から「よく関西の人は・・・。」とか言われるのですが、関西人としてはピンと来ないんですよね。おそらくは関西人イコール大阪人というイメージなのでしょう。

 

関東平野は平(たいら)です。
「そんな事は当たり前です。」と言われるでしょうけど。
という事は、東京と横浜はそんなに気候は変わらないという事ですね。

でも、近畿地方は山が多く、冬期に京都市から大津市(滋賀県)に電車で10分ほど移動しただけで(新幹線ではなく、在来線で)、京都で晴天の天気が(滋賀県の)大津では積雪20センチの吹雪の景色になっていることもあります。
一山越えると気候が全く変わります。
それはつまり、出来る作物が違うということです。
さらに言えば、食べる作物も違うという事です。
食べる作物が違うと人の気質・性格も変わります。
この多様性が関西・近畿地方の強みであり、弱点でもあるのでしょうか。
「関西の人は・・・。」と関東の人が勝手に思われても、決まった気質や性格は関西人にはないんですね。

 

大阪人をイメージした「早口で話して、ケンカしているみたい。」と言われる話し方は、京都人の話し方ではないんです。
京都人の話す速度はそんなに早くないです。
大阪人はせっかちと言われますが、京都人はのんびりしています。

飲食店に入っても、大阪の店はすぐに料理が出てくることが多いですが、京都のお店は結構、時間がかかることが多いみたいです。
飲食店の行列に並んで待つことは、京都人も大阪人も苦手です。でも、その理由は違います。
大阪人はせっかちな性格(大阪では「せっかち」の事を「いらち」と言いますが)のためであり、京都人は人と同じことをするのを恥ずかしいと思う気質のためです。
行列に並んでいるところを知り合いに見られたりすると、「いや、友人に頼まれて(やむを得ず並んでいます)……。」と言い訳するのが京都人です。

子供の頃、親や親せきの人と食事に行った時に、他の人と同じ料理を注文すると怒られました。
「他の人の真似をするな」と。
「自分で食べたいものを自分の頭で考えなさい。」と。

 

正直に言って、京都人は大阪人と同一視されることが苦痛です。
実は京都人と大阪人は昔から(江戸時代から?)仲が悪いんですよね。
価値観が、かなり違うので……。
このことは関西以外の方はあまり、御存じないかもしれないです。
花登 筺(はなと・こばこ:作家)さんの大阪商人根性もののドラマを子供の頃、面白く見ていましたが、子供心に少し、違和感を持ったことを覚えています。

大阪商人の第一目標は、最大限の利益を上げ、店・会社を大きくすることでしょう(それはどこでも同じですが)。
そのためには、遊びや娯楽は無駄で邪魔な物として、排除されます。
京都では、店・会社を大きくすることが第一目標ではなく、次の世代に引き継ぐことを優先します(引き継ぐ相手は親族とは限りません)。

 

それに遊びや娯楽は必ずしも、悪ではないのです。
勿論、本業をおろそかにするのは問題外ですが、「歌舞伎」も400年前は大衆娯楽(それに少し、いかがわしい?)でした。
400年間、いろいろな人が「歌舞伎」を洗練させ、努力してきて、日本を代表する芸術にしてきたのです。

ほとんどの文化・芸術は元はと言えば、遊びや娯楽や趣味の世界の延長線上にあると思います。
京都人は経験的にそのことを知っているようです。
そして、その文化・芸術が京都の存在をある地位に押し上げていると言えます。
京都では教養や文化の素養がある方が、商売にもプラスに働くようです。
京都で尊敬されている人は、お金をたくさん儲けた人ではなく、お金をいかにきれいに使ったかどうかなのです。
お金は使わないと世の中に回って行かないので・・・。

 

江戸時代、着物で儲けた呉服屋の若旦那は祇園などの花街でお金を使い、お茶を嗜み、また才能はあるのに恵まれない芸術家たちを支援しました。
そういう売れない芸術家の作品を買ってやり、その芸術家が有名になれば、買っていた作品の価値が上がることもあったでしょう。
ちょうど、現代で言えばベンチャー企業に投資して、そのベンチャー企業が上場すればその株の価値が上がるのと同じような事でしょうか。
こういう京都に全国から芸術家たちが集まり、そして切磋琢磨しながら京都の文化レベルを上げていきました。
私はそういう京都が好きですね。


よって、京都人は(関東の人が考える)関西人ではないのです。

この点をどうぞよろしくご承知ください。

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辻井 輝幸

辻井 輝幸

【京都観光ガイド】1956年、京都市下京区の生まれ。京都産業大学経済学部卒。子供の頃の遊び場は東本願寺と西本願寺。京都の事なら、何でも興味あり。得意分野は「美術(絵画)・建築(昭和初期以前)・天文(歴史関連)」、趣味は「歩くこと(1日に4万歩以上歩くことも)」、資格は「京都観光文化検定1級・茶道文化検定2級を所持」
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