京都市左京区一乗寺。
ラーメン激戦区としても知られ、パン屋やカフェも多く、オリジナリティあふれる本屋があり、学生の街としても賑わいをみせる「ちょっと面白い」街。
その一乗寺に、一軒の「ちょっと面白い」ブリュワリー(ビール醸造所)があります。
その名も「一乗寺ブリュワリー」
開業者で代表取締役会長の高木俊介さんは、精神科の在宅医療を行う医師です。主に「統合失調症」という精神障害を抱えている人たちを、訪問型支援でサポートする新しい医療の日本での第一人者です。今まで社会から隔離されることの多かった「統合失調症」という障がいを抱える人たちの治療において本当に必要なのは、社会との繋がりや周りとの人間関係だと感じた高木さんが、彼らと社会とを繋げる仕事をつくれないかと思い立ったのが「一乗寺ブリュワリー」の始まりです。
ではなぜ、ビールなのか?ビールは原料が乾燥物なので世界中どこでも作れること、季節を問わず作れること、さらに、開業に向けてのスタートを切った2010年前後はクラフトビールが日本のビール好きの間に広がり始め、これからさらに面白くなりそうだった時期でもありました。そんな理由から、ビールづくりがスタートしたのです。
現在、一乗寺ブリュワリーで働くブリュワーは2人。15年間日本酒とクラフトビールの醸造所に勤務した経験を持つ林晋吾さんと、東京農業大学で醸造学を学んだ横田林太郎さん。
お2人がこだわってつくるクラフトビールは、1回の仕込みで200ℓを醸造する超少量生産スタイル。これが、ビールの元となる麦芽の成分をしっかり抽出できる直火での製法で生産できる最大の量だとのこと。
粉砕した麦芽と温水を混ぜ合わせ、直火にかけながら手作業で撹拌すること約一時間。温度調整や濾過などの工程を経て、ビールの香りや苦みを左右するホップ、バリエーション豊かな味わいを生み出すために欠かせないフルーツやスパイスを添加します。
もちろん、ここにも並々ならぬこだわりが。水尾のゆず、舞鶴のみかん、城陽の梅など、「一乗寺ブリュワリー」ではなるべく京都産ものをビールに使用しています。それは、クラフトビールが別名「地ビール」とも呼ばれ地域に根差した存在であることと、地のモノを使うことで生産者の顔が見えるビールができるから。
生産者の方々と顔を合わせ話し合いながらつくられるビールは、その素材の良さと特徴が存分に生かされ仕上がります。生産者から届く素材は、皮や種なども含めできるだけまるごと使うようにしているそうです。皮や種に含まれる旨みや渋みは、ビールの味わいをより良くしてくれます。
「生産者さんと一緒になってつくる時には、お互いにwin-winになれるよう心掛けている」と林さん。素晴らしい素材によって美味しいビールが出来ることはもちろん、ビールになることで素材そのものが注目され、後継者不足に悩む生産者の現状を打破する一手になればとの想いがあるそうです。
お2人の手で丁寧に仕込まれたビールは、冷蔵庫で静かに2週間熟成させれば完成!出来上がったビールは、飲んだ瞬間「うまい!」が口から自然と飛び出すような美味しさです。
ブリュワーのお2人に、一乗寺ブリュワリーに参加する想いを聞きました。
大学で微生物について研究し、同時に、大学在学中に路上生活をされている方を支援する団体にボランティアで参加していた横田さんは
「しっかりとしたビジョンを持っているブリュワリーに賛同して参加しているやりがいと、好きなことを仕事にする幸せを感じています」と。
前職の醸造所で15年務め、その会社でできることはある程度やり尽くしたという林さんは
「少量生産だからこそ面白いビールをつくれるのが、ここの魅力のひとつ。一乗寺という面白い土地柄に、ここのビールはとてもしっくりくる」と語ってくださいました。
一乗寺ブリュワリーが抱く最終目標は「ビールづくりによって雇用の場を生み出す」こと。
現在、一乗寺ブリュワリーのビールはBEER PUB ICHI-YA(京都市中京区錦小路御幸町上ル)を始め、取扱いのある飲食店で飲むことができますが、例えば近い将来ビールを瓶詰して販売すれば、瓶詰の作業やラベル貼り、そして農作物を作る仕事等、ビールを醸造する仕事以外にも様々な仕事が生み出せるのではないかと考えておいでです。
「近寄ってみたら、みんなおかしい」というキャッチコピーを掲げる一乗寺ブリュワリーの歴史は、まだまだ始まったばかり。ぜひ、一乗寺ブリュワリーのこれからを見守りつつ、美味しいビールで乾杯しませんか?
一乗寺ブリュワリー
公式サイト: http://kyoto-ichijoji-brewery.com/
三崎智子
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- 醸造所で作っているのはクラフトビールと精神障がい者の未来 『一乗寺ブリュワリー』 - 2018年3月12日