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「今だから話せるちょっと野暮な体験談2」詳しすぎる、辻井輝幸の京都随想記

辻井 輝幸

第十五回「今だから話せる事 その2」

今回も、私が京都で体験したことを書いてみたいと思います。

京都と関空を繋ぐ定期便計画での喜劇

関西国際空港がまだ、オープン前のことです。京都から関空(関西国際空港)へ大型ヘリによる定期便の計画がありました。関空はそれまでの伊丹空港より、京都からはかなり遠くなるので、こんな計画が考えられたのでした。
大型ヘリは陸上自衛隊でも使われている2ローターのCH-47でした(すごく大きいです)。
テストで一回やってみようということになり、ある天気のいい日に国立京都国際会館(京都人はよく国際会議場っていいます)のイベントホールの広い駐車場に京都商工会議所の(京都産業界の)エライさんたちが、お抱え運転手付きの高級車で続々と集まってきました。
こういう車はほとんど黒塗りですが、中には紺色の車もありました。
メルセデスベンツ・BMW・センチュリー・プレジデントなど20台以上の高級車です。

 

イベントホールの警備員さんは大型ヘリが着陸できるスペースを確保するために、円錐形のオレンジ色樹脂製コーンを次々と駐車場に並べていきます。
エライさんたちはどこかの部屋で歓談されているのでしょう。そのうちに、大型ヘリが飛んできます。
ヘリのローターが起こす風はものすごいですね。
その風圧で、たくさんの樹脂製コーンが飛ばされて高級車に次々と当たっていきます。
ま、樹脂製なので、大きな傷は車についていないと思うのですが、砂埃で黒塗りの車は埃まみれになってしまいました。
呆然とする運転手さんたち。しかし、予定通りの場所・時間に着陸した後、エライさんたちを乗せて関空へ。

「2時間半くらい後に戻ってくる」と警備員さんから聞きました。
お抱え運転手さんたちは埃まみれになった自社の車を戻ってくるまでの間に、綺麗にしていきます。
運転手さんは車を常にピカピカの状態にして、乗車する会長さんや社長さんに恥をかかせないのも仕事の一つです。

警備員さんたちはヘリが帰ってくる時間が近づくと樹脂製コーンを取り払い、それ以降は口頭で駐車場に来られた車にスペースを空けるように指示していました。
コーンが風で飛ばされて、車に当たったのに懲りたのでしょう。
学習されたのですね。さらに、砂埃が舞い上がらないように大量の水が撒かれました。

 

やがて爆音が聞こえ、ヘリが戻ってきます。
ヘリが地上に近づくにつれて、ローターが起こす風が地面に吹き付けられました。
樹脂製コーンは取り除かれているので、車に当たることはありません。
しかし、砂埃を防ぐために撒かれた水が泥水となって、黒塗りの高級車にシャワーのように吹き付けます。
運転手の皆さんが2時間近くをかけて、ピカピカになっていた車がほんの数秒で泥まみれになってしまいました。

 

ヘリから降り、車を見て呆然とするエライさんたち。
運転手さんたちは慌てて、エライさんたちに走り寄り、「イヤ、これは警備員が水を撒いて・・・」と言い訳をしたのでしょう。
私の立っていた所からでは、距離があったのとローターの風切り音で会話は聞こえませんでしたが、そんなことを言っていたと思います。

 

私は親から「人の不幸を笑ってはいけない。」と教えられました。でも、これは笑ってしまいますよね。ヘリのパイロット・警備員さん・運転手さんたち、皆さん一生懸命に自分たちの仕事を真面目に頑張りました。
しかし、結果は爆笑を誘う事が起きる。これこそ、喜劇の王道。まるで、チャップリン映画のストーリー展開のようでした。

この計画は結局、コストが合わずボツになりました。当分の間、このエピソードは宴会の時の話のネタにはなったでしょうけど。

皇族は移動されるだけでも大変?

10年ほど前、私は京都市と奈良市の間にある精華町という所のある踏切近くにいました(ある危険物を運んでいました)。
踏切から20メートルの所に車を止めていると、スーツ姿の男性がこちらに向かって走ってきます

 

その男性は内ポケットから警察手帳を取り出し、「あと3分ほどで皇太子さまの乗られた近鉄特急がこの踏切を通りますので、ここでしばらく待ってもらえます?」と(京都から奈良に移動されるとのことでした)。

 

3分ほどしてその電車が来る時にはその私服警官の方は、電車からは見えない位置に隠れ、電車は通り過ぎていきました。
きっと、皇太子さまに心理的にご負担をかけないためなんでしょうね。
そして、私服警官の方は私に会釈をされ、私も会釈で返しました。と、ここで考えたのですが、私のいた踏切は決して特別な踏切ではなく、ありふれた小さな踏切でした。
私の想像ではおそらく、他の踏切にも私服警官の方が立っておられたのでしょう。
でも「京都から奈良の間にどれだけの踏切があんねん(何十か所もあると思います)!」

皇族の方が在来線で移動されるとなかなか大変なんですね。警備の方、本当にご苦労様です。

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辻井 輝幸

辻井 輝幸

【京都観光ガイド】1956年、京都市下京区の生まれ。京都産業大学経済学部卒。子供の頃の遊び場は東本願寺と西本願寺。京都の事なら、何でも興味あり。得意分野は「美術(絵画)・建築(昭和初期以前)・天文(歴史関連)」、趣味は「歩くこと(1日に4万歩以上歩くことも)」、資格は「京都観光文化検定1級・茶道文化検定2級を所持」
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