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「京都一周トレイルのススメ」詳しすぎる、辻井輝幸の京都随想記

辻井 輝幸

第十七回「京都一周トレイル」

京都は「山紫水明」の地といわれます。
京都市は三方を山に囲まれています。東山・北山・西山と清らかな川の流れは日本の美の象徴と言っていいでしょう。
そして、何と言っても京都には沢山の史跡があります。
その山の中を歩く「京都一周トレイル」というトレッキングコースが整備されています。
山と言っても、京都市の周りにある山は1000メートル以下の高さ(比叡山は標高848m・愛宕山は924mです)なので上級者対象のコースではありません。初心者・中級者向けのコースです。
全部のコース長は80kmくらいでしょうか?でも、一度で走破するのではなく、「今日はこの駅からこのコースを歩いてこの山の展望台から京都の景色を上から見て、山の反対側に下りた所の駅から帰宅しよう。所要3時間くらいか。」というような歩き方をします。
天気のいい日になると「京都一周トレイル」コースを歩きたくなりますね。

「京都一周トレイル」コースを歩いていると、よく小学生を連れた親子と思われるご家族やおじいさんとお孫さんのようなご家族にお会いすることがよくあります。
微笑ましく感じ、心がほっこりしますね。
小学生・お年寄りも気軽に歩くことができるコースが沢山あるのが、この「京都一周トレイル」コースです。コース中の分かれ道には数字が表記してあるコース標識があり、道に迷わないようになっています。
もし、トラブルで動けなくなった場合など、その数字を連絡すれば場所を特定してもらえます。

かつて、京都の山の多くはお寺の敷地でした。
仏教では殺生禁止です。そのためでしょうか、山の中で野生の鹿に出会ってもほとんど、無視されます。
人間は危害を加えない動物と思っているのでしょう。奈良公園の鹿ほど、人になれていないですけど。
京都では、鹿、猿、鳥などは人を恐れず結構、そばまで近づいて来ます。

「京都一周トレイル」コースは気軽に歩くトレッキングコースですが、世界には「トレイルラン」という100マイル(160kmくらい)を走るレースがあります。
なんでも、人間が眠らず休まず、走ることができる限界の距離だそうです。
それも平地ではなく、ほとんどが標高差1500mとか2000mコースで、そこをトップランナーは20時間くらいで走破します。
レース終盤になると、立っている木が人に見えてきて恐怖を感じることがあるというランナーがいました。
人間は強い苦痛を感じた時に脳内から「βーエンドルフィン」というモルヒネの何倍から何十倍の強さの脳内麻薬が出て、苦痛を和らげるといいます。

その「βーエンドルフィン」によって、幻覚が見えることがあるのでしょうか?
比叡山の「千日回峰行」の厳しい修行をされている阿闍梨(あじゃり)さんも、「絶対に人がいないはずの所に人の気配を感じたことがある。」とテレビで言われていました。
「βーエンドルフィン」のよって存在しないものが見えることがあるのなら、厳しい修行などで苦痛を感じた時には、そのことによって神や仏を感じることがあるのではないかと思っています。
世界中の宗教の多くには厳しい修行が付随しており、また本当に苦しい時こそ、神や仏に頼りたいと思うでしょうから。

以前、「京都一周トレイル」コースで叡電「修学院駅」から雲母坂(きららざか)を上って比叡山延暦寺に行ったことがありました。
確か、「千日回峰行」で阿闍梨さんが歩く道だと思いますが、結構キツイコースです。
中級者向けでしょうか?比叡山より標高が高い愛宕山にも何度か登りましたが、愛宕神社の表参道より雲母坂の方が体力を使いました。

ふと、考えると平安時代から室町時代頃まで100回以上も、この道を通って比叡山の僧兵たちは天皇などに強訴(ごうそ)をしたのですね。
強訴とは比叡山の僧兵が日吉山王社の神輿を担いで天皇に自分たちの要求を突き付けました。
「荘園を寄進してくだされ。」とかいったのでしょうか。
昔、学校で習った白河院の天下三不如意、「賀茂河の水、双六の賽、山法師、是ぞわが心にかなわぬもの」の山法師がこのことにあたります。

下京区の室町通仏光寺にある「日吉神社」は強訴で神輿を比叡山から降ろした後、この場所に神輿を置き去りしたため、お社が建てられたとか。
雲母坂をもう一度、神輿を担いで比叡山に上げるのは大変ですからね。
それにしても、神輿を捨てていくとは・・・。

また、以前には銀閣寺の脇から大文字山に登った時には、頂上の所でマウンテンバイク(自転車)に乗った40歳くらいのスゴイ男性に遭遇しました。「登れるところまでと思いながら上がって来たら、ここまで来ました。」と言われて驚いた経験があります(この時には俊寛の山荘跡を抜けて霊鑑寺の横に下りました)。

お天気のいい日は「京都一周トレイル」のトレッキングはお勧めですよ。

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辻井 輝幸

辻井 輝幸

【京都観光ガイド】1956年、京都市下京区の生まれ。京都産業大学経済学部卒。子供の頃の遊び場は東本願寺と西本願寺。京都の事なら、何でも興味あり。得意分野は「美術(絵画)・建築(昭和初期以前)・天文(歴史関連)」、趣味は「歩くこと(1日に4万歩以上歩くことも)」、資格は「京都観光文化検定1級・茶道文化検定2級を所持」
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