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「夏の風物詩、大文字送り火」詳しすぎる、辻井輝幸の京都随想記

辻井 輝幸

第十六回「夏の風物詩、大文字送り火」

8月16日、京都市では「大文字送り火」という行事が行われます。私が小・中学生の頃には「大文字送り火」を見ると、「夏休みの宿題をしなきゃ……。」と思った記憶があります。
お盆の間にあの世からこの世に戻って来ている先祖の霊が迷わずに帰っていけるようにとの魂送りの行事です。
山に文字などを護摩木・薪・松葉・麦わらなどを燃やして形づくる行事です。
京都では「葵祭」・「祇園祭」・「時代祭」を京都三大祭と呼びますが、その三つに「大文字送り火」を加えて京都四大行事といいます。

「大文字送り火」は「五山送り火」とも言います。
「五山」とは大文字山の「大」、松ヶ崎西山・東山の「妙」「法」(二つの文字を一つと数えます)、西賀茂船山の「船形」、大北山・左大文字の「大」、曼荼羅山の「鳥居形」です。
「大文字送り火」は決して「大文字焼」とは言いませんので、くれぐれもご注意ください(京都の放送局ではお盆の時期が近づくと放送局内の廊下に「絶対に大文字焼と言うな!」という張り紙が張り出されるとか。もし、言ってしまうとクレーム電話などが殺到するとか聞きました)。

3年ほど前、鴨川デルタに見物に行きました。
「大文字送り火」は午後8時に東にある大文字山から西の方に順々に点火されていきます。
先祖の魂を東から西に誘導していくのですね(西方浄土というくらいですから、あの世は西の方にあると考えたのですね。
以前の点火順は違ったみたいですが)。
鴨川デルタは見物する人で大混雑。周りから聞こえる言葉は英語・フランス語・スペイン語・中国語・韓国語など国際色豊かでした。
あまりの混雑ぶりに翌年は違う所で見物しようと決めた記憶があります。
でも、翌年2016年は土砂降りで出かけるのは諦め、テレビ中継で我慢することになりました。
翌朝は快晴。「これは大文字山に上らねば。」と頑張って銀閣寺の横から山道を登り、途中の山中では野生の鹿にも遭遇したりして楽しい山歩きでしたね。
昼前頃に大文字の火床に到着して、消し炭をいただきました。
消し炭を和紙に包んで水引で結んで家の戸口に吊るしておくと疫病除けになるといわれています。
その他にも、「大文字送り火」の火床に組んで燃やす護摩木に、自分の名前と先祖供養や無病息災といった願いを書いて奉納すると叶うとか。
また、よく知られているのは盃に入れた酒に大文字を映して飲むと願い事が叶う。また、長生きできるともいわれます。


大文字山の「大」の大きさは一画目が80メートル、2画目が160メートル、3画目が120メートルで火床は75ヵ所あります。

8月16日の送り火の当日は大文字山に登れませんが、他の日なら登れます(天候次第ですが)。

30年以上前、よくデパートの屋上のビアガーデンで「大文字送り火」を見物しました。屋上から見ていると「大文字送り火」8時点火の直前に、街中の灯が次々と消えていきました。
先祖の魂が送り火以外の灯で迷わないようにという配慮でしょう。
本当に例外なくパチンコ屋さんのネオンサインを含めて(信号機はさすがに消えませんが)灯が消えていくのに感動しました。
それぞれのお店が時間をみて、スイッチを操作したようです。でも、最近はそういう慣習も廃れてきたと思いますが。

 

ある有名なお寺で、以前「大文字送り火」当日にビアホールのようなことをされていました(招待客を対象にしたものイベントです)。
ビールを飲んだ後、送り火を見物するというイベントで、作務衣を着たお坊さんにビールを運んできてもらった珍なる経験があります。
送り火の当日は京都市内のあちこちで、いろいろなイベントが行われています。
この日は京都のビール消費量が急増する特異日ですね、きっと。

 

さて、これだけ注目される「大文字送り火」ですが、いつ誰が始めたのかは分からず、謎とされています。
京の町には公家や僧侶など文字を書くことができる人が多いのにどうしてなんでしょうか?空海説、足利義政説、近衛信伊説など諸説あります。
応仁の乱の時、京都から公家が地方に避難して、そこの人たちが公家の心を慰めるために京の送り火を模したものを始めたとかいわれます。
という事は応仁の乱(1467~1477)の頃には行われていたと考えられると私は思います(全国各地に似たような行事があります)。

昨年は京都御苑で見ました。人は多いですが、広い所なので混雑ぶりは許せる範囲です(鴨川デルタより大文字山を見るには遠くなるので見た目が小さくなりますけど)。
京都市内には、他にもたくさん見物スポットがあります。どうぞ、お気に入りの場所を見つけてください。
ご年配の方が送り火に両手を合わせて拝まれている隣で小学生が同じように拝んでいるのを見ると私は嬉しくて、胸が一杯になります。
伝統が確実に受け継がれているのを感じて……。
京都人なら同じような気持ちを持つのではないでしょうか。

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辻井 輝幸

辻井 輝幸

【京都観光ガイド】1956年、京都市下京区の生まれ。京都産業大学経済学部卒。子供の頃の遊び場は東本願寺と西本願寺。京都の事なら、何でも興味あり。得意分野は「美術(絵画)・建築(昭和初期以前)・天文(歴史関連)」、趣味は「歩くこと(1日に4万歩以上歩くことも)」、資格は「京都観光文化検定1級・茶道文化検定2級を所持」
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